ある日、当クリニックに83歳の鈴木さんが来院されました。最近、気になる症状があるというご相談でした。それは「血便」です。
元々痔をお持ちだった鈴木さんは、当初「また痔が出たのかな」と、そこまで深刻には捉えていなかったそうです。軽い気持ちで、しばらく様子を見ていた期間もあったとのこと。しかし、血便の回数が目立って増えてきたため、「念のため、診てもらおうかな」という温度感で受診を決意されたといいます。ご本人としては、特に焦りや病気に対する強い自覚はなかったようです。
医師の鋭い判断:
見過ごされがちな「ブランク」
しかし、診察にあたった小田木医師は、鈴木さんの言葉の裏に潜む可能性を見逃しませんでした。83歳という年齢に加え、大腸カメラの最終受診が10年前という、かなりのブランクがあったためです。この情報から、医師は「大腸がんであるとか、そういった病的な所見の可能性も十分にある」と判断。鈴木さんの「念のため」という気持ちに応えつつ、大腸カメラ検査を強く推奨しました。
鈴木さんは以前にも大腸カメラの経験があったため、検査に対する抵抗は少なく、スムーズに検査へと進むことになりました。
検査で判明した
「まさか」の事実
下剤を飲んで準備を整え、いよいよ大腸カメラ検査の実施です。
検査の結果、小田木医師の慎重な判断が正しかったことが判明します。なんと、鈴木さんのS状結腸から、20mm(2cm)もの大きなポリープが発見されたのです!内視鏡治療で扱うポリープとしては「かなり大きいサイズ」に分類されるものです。このポリープは「赤みが強い」特徴を持っており、まさに鈴木さんが悩まされていた血便の主な原因であった可能性が十分に高いと診断されました。幸いなことに、この大きなポリープはその場で内視鏡的に切除することができました。
もちろん、元々お持ちだった痔からの出血の可能性 や、以前受けた前立腺がんの放射線治療の影響で直腸に現れていた血管拡張(こちらも出血の原因となり得ます) といった所見もありましたが、2cmのポリープの存在は非常に大きかったのです。
鈴木さんの「驚き」と
今後の可能性
検査後、小田木医師から鈴木さんへの説明は、彼を大きく驚かせました。切除したポリープが大きいことから、「がんの可能性が十分にあること」そして「病理検査の結果によっては、追加で外科手術が必要になるかもしれない」という、重い内容が伝えられたからです。
「全然そんな自覚がなかった」という鈴木さんは、まさか自分の体内にそのような危険なポリープが潜んでいたことに、大変な衝撃を受けられたとのことです。その後、出血量に大きな変化がなかったため、1週間後に改めて来院し、病理検査の結果を聞くことになりました。
このケースから学ぶべき教訓:
定期的な検査の重要性
今回の鈴木さんのケースは、「軽い気持ちで受診したら、実は重大な病気が見つかった」という、私たちが医療現場でよく経験する典型的な事例です。
小田木医師は、このケースを通して私たちに重要なメッセージを伝えています。
- 鈴木さんのように、80代という高齢で大腸カメラのブランクが10年と長かったことは、特に注意が必要な点でした。
- 一般的に、大腸に何らかの異常所見がある場合、4~5年に一度の大腸カメラ検査が推奨されています。
- 特に、大腸がんの家族歴がある方や、過去にポリープを切除した経験がある方は、より厳重に2~3年に一度の頻度で大腸内視鏡検査を受けることが望ましいとされています。
「念のため」「軽い気持ちで」という受診が、実は重大な病気の早期発見につながることは少なくありません。症状が軽微であっても、年齢やご家族の病歴、ご自身の既往歴によっては、定期的な大腸カメラ検査が非常に重要であることを、鈴木さんのケースは教えてくれます。
「自分は大丈夫」と思わず、少しでも気になることがあれば、放置せずに医療機関を受診し、適切な検査を受けることの重要性を改めて心に留めておきましょう。